理想の一日について考える。

理想の一日について考える。

朝7時に目覚める。

タオルを肩にかけて、歩いて3分の温泉に行く。
広い浴場にはおばあさんと孫らしき男の子。
露天風呂で鼻歌を歌う。(おそらく、流れ星ビバップ)


風呂の休憩所で冷えたどくだみ茶を飲む。ごくごく2杯飲む。
3杯目は遠慮する。いくら無料で施されるものでも、引き際が肝心だ。


あさごはんはおにぎり、金芽米
コンビニのおにぎりでよいよい、焼きたらこがよいよい、二房はいってればヨイヨイ。


ちょっと湯あたりしちゃったかもね、と畳にごろんする。
頬に畳のあとがつくかつかないかの時分にハタと起き上がる。


浴衣でプールへゆく。
水着はSPEEDO×ギャルソンでよろしく。
もちろんスイミングキャップもギャルソンハートのやつで。


おばあちゃん3人、プールサイドで嫁の悪口と息子の不甲斐なさを漏らす。
おじいちゃん二人。一人は老人とは思えぬ肉体。隆々。
一人は泳いでるのか、溺れてるのかおぼつかない。


すいすい泳ぐ。
長めにけのびする。15M地点の赤い線まで、は届かない。
クロール、平、平、クロール、クロール、クロール。
1500Mきっかり45分で泳ぎきる。


受付のおじちゃんにきちんと挨拶する。大きな声で、ありがとうございました。
濡れ髪で帰宅。


洗濯をする。
タオルは端と端をぴったりとさせて、
靴下はちゃんとペアを探し出して、干す。


ベランダでタバコを吸う。腹が鳴る。
豆腐ハンバーグとおでんのがんもを食べる。
がんもには銀杏が入っている。田楽味噌をつけて食べる。
名古屋のことを少し思い出す。


本を読む。村上春樹を読む。
セックスシーンのたびに、ハルキ・ムラカミの漁師顔が浮かんでうまく感情移入できない。


うとうとする。うつらうつらする。
布団にもぐる。午睡。


開けたままの窓から冷たい風がぴゅーと吹き込んできて目を覚ます。
14時15分。


自転車に乗る。吉祥寺までいく。車道には車がいない、
代わりに牛とヤギと鹿がのうのう歩いている。


尻の立派な鹿を追い越す。鹿が並走してくる。
鹿の真っ黒な目を見る。見つめあう。
見つめ合ったまま走る。
環八にぶちあたったところで鹿とは別れた。
私は左折し、鹿は直進した。
さようなら。


井の頭公園で本を読む。
ベンチに腰掛けて外国の本を読む。


風がてっぺんの毛を揺らす。
そよそよ、ふわふわ、ゆさゆさ、びゅうびゅう
ごぉごぉー。


風がどんどん強くなる。
見上げると竜巻。
色々なものが飲み込まれている。


白鳥ボートも、自転車も、動物園のリスザルの群れも、『甘酒あります』の暖簾も
別れ話をしていたカップルも、売店のおばちゃんも、すべり台も。


楽しそうなので、混じることにする。
えい、と地面を蹴ると私も竜巻の中に取り込まれた。


すごい速さでぐるぐる回る。楽しい、声をあげて笑いたいけれど
猛烈な風で口を開けると、脳みそまで開いてしまいそう。


30分ほど回って、ペっと竜巻に吐き出された。
両足で蓮の花の上に着地、天上天下唯我独尊!と脊髄反射的におらぶ。


嘲笑が耳をかすめる。


竜巻は勢力を強めながら北上していった。
もう少し、回っていたかったのにな、と思う。


髪と着衣の乱れを正し、飛び石上に並んだ蓮の葉をトン、トン
と渡り、山を越え、谷を超え、ぼくらの町にやってきた。


ハットリくんがいた。


ハットリくんに忍法を習う。葉隠れの術を習う。
ハットリくんは手取り足取り丁寧かつ適切な指導を施してくれるのだが、
如何せん「ニンニン」としか発してくれない。


ニンニン、ニンニンニンニン、ニンニン・・・ニンニン。
ニンニキニキニキニンニキニキニキニニンが
フゥー!!!

ふりかえると、
BOSEくん、および蘭々、および安室チャン、および半目黄緑の化け物と赤毛モップとPちゃん。


6人7脚で猛烈な勢いで攻めてくる。
逃げる、逃げる、
早い、やつらは早い。


殺られる、と思った刹那、背中から羽が生えた。


パタパタと夕焼け空を飛ぶ。街を見下ろす。
なにもかもが等しく、夕日に照らされて赤い。


空を見上げる人たちに手を振ってみるも誰も振り返してはくれない。
気づいてくれない。
誰からも認知されない。
羽を思い、嬉しくなる。


今俺は、どこのどいつより自由だぜ。
口の中で言葉をまるめてみる。



静謐で清潔な私の部屋に帰る。
ベランダから入室する。


ベッドの上でマツケンが【ニュートン】を読んでいる。


お帰り、
ただいま。


はね生えたーーー。


煙草を吸う。